「退職代行を使おうと思っているけど、業務の引き継ぎって不要なの?」
「退職代行使ってから、業務の引き継ぎ関連で連絡が来たりしないの?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、本記事は執筆しております。
- 退職代行利用時の引き継ぎ義務の有無
- 引き継ぎなしで退職代行を利用するときのリスク
- 退職代行を利用しながら、円満に引き継ぎをおこなう方法
1.退職代行と引き継ぎの関係性
退職代行を利用する際、気になるのが業務の引き継ぎをいかにおこなうかです。退職代行と引き継ぎは、どのように関係しているのでしょうか。
退職代行サービスとは?
退職代行とは、本来であれば労働者が会社に直接退職の意思を伝える形でなされる退職手続きを、弁護士や専門の代行業者が代わりにおこなうサービスです。
このサービスは、会社から引き止められたり、退職に際して嫌がらせを受けたりといったトラブルに遭うのを恐れて、自ら会社に退職を申し出るのが難しい人のために存在します。
実は、退職代行サービスは10年以上前から弁護士の業務の一環として存在していました。未払い残業代などの相談を受けた際に、劣悪な労働環境下で働かされていた労働者からの依頼で、弁護士が退職手続きを代行した事例があります。
近年、メディアで取り上げられる機会が増え、認知度が高まりましたが、実のところ退職代行サービスの成功率は「100%」ではありません。後述するように、民法上は申し入れから2週間で退職できる規定があるものの、実際の手続きは会社によって異なり、円満かつ迅速な退職は必ずしも保証されないのが現状です。
退職代行は、一言でいうと「退職手続きを代行してくれること」です。しかし、サービスの中身にはさまざま特徴があり、どのような種類があるのかを理解しておくことが、自分に合う退職代行を選ぶ秘訣です。私たち編集部が誰にでもわかりやすいようにまとめた「退職代行」の記事はこちらからご確認できます。
法律上の引き継ぎ義務の有無
結論として、労働者が会社を辞める際に、業務を引き継ぐ義務が法律で定められているわけではありません。民法第627条では、会社を辞めたいと思ったら、会社に2週間前に伝えれば、特に理由もなく辞めることが可能です。
ただし、会社に具体的な実害が発生する可能性がある場合は、トラブルに発展するおそれがあります。例えば、雇用契約や就業規則に引き継ぎ義務が定められている場合、あるいは引き継ぎ不足で会社が損害を被る場合には、損害賠償を求められるリスクも考えられます。
退職代行を利用した場合も同様です。退職代行は、あくまでも会社との交渉を代行するサービスであり、引き継ぎなしで退職できることを保証するサービスではありません。
2.退職代行利用までに引き継ぎをしたほうがいい場合
退職代行サービスの利用にあたって、業務を引き継ぎしておくのが望ましい場合もあります。どのようなケースで引き継ぎが求められるのか、以下で詳しく解説します。
就業規則に引き継ぎの事項がある場合
会社の就業規則に引き継ぎに関する規定がある場合、注意が必要です。特に、退職金を全額受け取るための条件として、引き継ぎが定められているケースがあります。企業は、退職金の支給要件を原則として自由に決められるため、仕事をきちんと後の人に引き継がなかった場合は、もらえるお金が減ってしまうかもしれません。
退職金を受け取る予定がある場合は、事前に就業規則を確認し、引き継ぎに関する記述がないか必ず確認しておきましょう。直接的なやり取りを避けたい場合は、退職代行サービスに依頼し、代行業者を通じて会社へ業務引き継ぎに関する手続きを進めてもらう方法があります。
会社に多大な損失が伴いそうな場合
業務を引き継がずに退職することで会社に損害が発生する可能性がある場合は、退職前にしっかりと引き継ぎをおこなうのがおすすめです。
たとえば、重要なプロジェクトを担当しており、特定のお客さんとの関係性を築いている従業員が、適切な引き継ぎをおこなわないケースです。この場合、会社の業務に支障が生じ、損害賠償などを請求される可能性があります。とりわけ、取引先の信用を失い、今後の事業に悪影響を及ぼすような事態になれば、請求を受ける可能性は高まります。
このような状況では、退職代行サービスを利用する場合でも、会社に損害を与えないように引き継ぎをおこなうのが望ましいでしょう。一部の退職代行サービスでは、引き継ぎに関するサポートをおこなってくれるところもありますので、事前に確認することをおすすめします。
3.退職の際に引き継ぎの心配がいらないケース
続いて、業務引き継ぎを気にしなくてもいいケースについて詳しく解説します。
会社からの引き継ぎ不要の許可がある
会社から引き継ぎが不要という許可を得ている場合、退職代行を利用してスムーズに退職できる可能性が高まります。ただし、それでも退職代行業者を選ぶ際には注意しましょう。
弁護士や労働組合などの専門機関が運営する業者であれば、会社との交渉経験が豊富で、より強固に意向を伝えられる可能性があります。一方、一般企業が運営する業者の場合、会社との直接交渉は難しいケースが多いものの、希望を会社に伝えることは可能です。
トラブルを避けるためにも、退職代行を利用する前には、できるだけ上司から引き継ぎ不要の許可を得ておいてください。また、利用を検討している退職代行業者に状況を詳しく説明し、引き継ぎなしで退職できるかを確認することも大切です。
引き継ぎがなくても業務に支障をきたさない
引き継ぎなしで退職したいと考えている方は、自分の担当業務を引き継がないことでどれほど会社に影響を与えるか、考えてみましょう。もし、担当していた業務が他の社員に代替可能で、すでに完了している案件ばかりであれば、会社への影響は最小限に抑えられる可能性が高くなります。
一般的に、損害賠償請求は会社に大きな損害が生じた場合に受けやすいものです。そのため、担当していた業務が会社の円滑な運営に不可欠でない場合は、トラブルなく退職できる見込みが高まります。
ただし、退職代行を利用する際には、事前に会社との間で、引き継ぎに関する合意を取っておくのが重要です。万が一トラブルに発展した場合に備え、証拠となるようなメールや記録を残しておくこともおすすめします。
4.引き継ぎなしで退職代行を利用するリスク
退職代行を利用して、引き継ぎをせずに退職しようとする行為には、さまざまなリスクが伴います。ここでは、それらのリスクについて詳しく解説します。
会社やお客さんから直接連絡がくる場合がある
引き継ぎなしで退職しようとしても、会社やお客さんから、未処理の仕事や必要な資料について連絡が来る可能性があります。これは、本人が業務に精通していたため、後任者への引き継ぎが必要になったり、お客さんからの問い合わせに対応するため、本人にしかわからない情報が必要になったりすることが原因です。
具体的には、上司から直接「引き継ぎをしてほしい」と連絡がきたり、お客さんから「〇〇について教えてほしい」といった問い合わせを受けたりする場合があります。中には、退職を撤回させたいと考えた会社が、直接連絡してくるケースも考えられます。
これらの連絡に逐一対応していると、精神的な負担も大きくなってしまいます。そのため、やり取りの方法はメールに限定するなど、自分にとって負担の少ない方法を選ぶことが大切です。なお、会社との関係性を完全に断ち切りたい場合は断ることも可能ですが、その際には訴訟リスクなども考慮し、なるべく丁寧な対応を心がけましょう。
損害賠償請求や懲戒解雇扱いされるリスク
引き継ぎなしで退職する場合、会社から損害賠償請求を受けたり、懲戒解雇処分とされたりするかもしれません。
特に、重要な業務を担当していたり、退職前に無断欠勤を繰り返していたりする場合には、そのリスクは高まります。業務の引き継ぎが不十分なまま退職したのであれば、会社から債務不履行による損害賠償を求められる可能性があります。また、就業規則によっては、無断欠勤や業務引き継ぎの拒否が懲戒解雇事由に該当する場合もあり、懲戒処分を受ける可能性も否定できません。
とはいえ、会社がそのような請求や処分をしようとしたところで、必ずしも損害賠償請求や懲戒処分が認められるわけではありません。法律上は、労働者の損害賠償責任は限定される場合が多く、会社の損害発生への寄与度なども考慮されます。
ただ、トラブルを未然に防ぐためには、退職前に担当業務を後任者へ丁寧に引き継ぐことが重要です。退職代行を利用する際には、事前にこれらのリスクについてよく理解し、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
退職金減額の可能性
引き継ぎなしで退職する場合、退職金が減額される可能性があることを覚えておきましょう。
会社の就業規則によっては、「引き継ぎをせずに退職する場合は、退職金が減額される」といった趣旨の規定が定められているケースがあります。これは、会社が円滑な業務の引き継ぎを期待し、その義務を果たさなかった場合に、労働者へペナルティを与えるためのものです。
退職金全額を受け取りたいのであれば、就業規則をしっかりと確認し、引き継ぎに関する規定がないかを確認することをおすすめします。また、人事担当者などに直接確認するのも有効です。
ただし、就業規則にそのような規定がなくても、「会社に損害を与えた」として、会社が退職金の減額や不支給を主張してくる可能性もあります。
退職金は、長年会社に貢献してきた労働者への報酬であり、簡単に減額されるべきものではありません。就業規則に減額規定がなければ、退職金の一方的な減額は認められないのが基本です。
しかし、引き継ぎを行わずに退職すると、会社との間にトラブルが生じ、結果として退職金の支払いが滞る可能性も考えられます。そうした退職金減額のリスクを避けるためには、可能な限り会社との関係を円満に保ち、スムーズに退職手続きを進めることが大切です。
5.退職代行を利用しつつ円満に引き継ぎをおこなう方法
退職代行を利用したいけれど、会社に迷惑をかけたくないという方もいるかもしれません。ここでは、退職代行を利用しながらも円満に業務を引き継ぐための方法を解説します。
中途半端な業務を残さない
退職までに担当している業務をすべて完了させることが理想です。これにより、後任者へ仕事を丸投げするといった状況を避け、円満な退職につなげられます。特に、自分が担当しているプロジェクトが最終段階にある場合や、後任者がすぐに対応できないような専門性の高い業務を担当している場合は、完了させておくことが重要です。
ただし、すべての業務を完了させるのが難しい場合もあります。その際は、優先順位の高い業務から順に完了させ、未完了の業務については、引き継ぎ書に詳細を記載し、後任者に状況を漏れなく伝達することが大切です。
引き継ぎ書を書面で作成しておく
直接引き継ぎを行うのが難しい場合は、書面で引き継ぎ書を作成すると、間接的に情報を共有できます。引き継ぎ書には、業務フロー、資料の保管場所、関係者の連絡先、今後のスケジュールなど、後任者が業務を遂行するために必要な情報を詳細に記載しましょう。
また、引き継ぎ書を作成する際は、後任者が理解しやすいよう、平易な言葉で簡潔にまとめることが重要です。図や表を多用すれば、よりわかりやすく情報を伝えられます。
借りている備品は返却する
ノートパソコンや書籍など、会社から借りている備品は、退職前に必ず返却しましょう。会社に郵送したり、直接持参したりするなど、適切な方法で返却手続きを行います。きちんと返却をしておかなければ、返還や損害賠償の請求を受けることもあるため、注意してください。
これらの方法を実践すると、退職代行サービスを利用しながらも、円満に業務を引き継ぎ、トラブルを回避できます。
6.まとめ
退職代行を利用すると、業務の引き継ぎが難しくなることがあります。特に急な退職の場合、同僚や上司に迷惑をかける可能性があり、悪い印象を与えることも。必要な引き継ぎがある場合は、事前に退職代行業者に相談し、対応方法を決めておくことが大切です。
それでも退職できないほど精神的に追い詰められているなら、自身の健康を優先し、退職代行を利用してスムーズに退職を進めましょう。