退職を考えているものの、直接会社と話をするのが難しい。そんな時に注目されているのが退職代行サービスです。
しかし、「退職代行を利用すると退職金がもらえないのではないか」と心配する方も多いのではないでしょうか。
この記事では、退職代行を利用しても退職金を確実に受け取るためのポイントを解説します。
- 退職代行サービスを利用しても退職金は受け取れる
- 退職金を確実に受け取るために選ぶべき退職代行サービスの種類と依頼先
- 退職代行で退職金をもらうために事前に確認すべき事項
- 退職代行を利用する際に気をつけるべき行動や注意点
1.退職代行でも退職金はもらえる?
結論からお伝えすると、退職代行を利用しても、退職金をもらうことはできます。
なかには、会社によっては支払い拒否をするかもしれません。また、退職金を出すとしても、金額を減らすと主張する会社もあるでしょう。しかし、退職代行を使うことは、退職金を払わない理由にはなりません。
勤務先に退職金制度があり、かつ受給条件を満たしているにも関わらず、会社が退職金を支払わない場合は、会社と交渉可能な退職代行サービス業者に依頼すれば交渉してくれます。諦める必要はありません。
2.退職代行の種類:退職金請求できるのはどのパターン?
退職代行サービスは、大きく以下の3つパターンで運営されています。
- 1.弁護士による退職代行サービス
- 2.退職代行ユニオン(合同労働組合)による退職代行サービス
- 3.民間の退職代行業者による退職代行サービス
弁護士による退職代行サービス提供
弁護士による退職代行サービスは、例えば以下のような点について、勤務先と交渉できます。
- 退職金の金額
- 退職日
- 有給休暇の消化
- 未払いの給与・残業代の支払い など
上記について、「企業と直接交渉をする」という行為は法律が関係するため、弁護士しかできません。
弁護士資格がない人が、弁護士がやるべき仕事を行って利益を得ることは「非弁行為」と呼ばれ、法律違反となります。
非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止
第七十二条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
もし退職代行を依頼した業者が非弁行為をした場合、依頼人は法律違反にはなりません。
しかし、最悪の場合、退職交渉の内容が無効になるおそれがあります。その点、弁護士なら、退職金の請求を含めたすべての交渉を安心して任せられます。
退職代行ユニオン(合同労働組合)による退職代行サービス提供
ユニオンとは労働組合の一種です。勤務先に労働組合がなくとも、在籍する会社や、正社員・契約社員・パート・アルバイトといった雇用形態に関係なく入れます。
退職代行サービスを提供しているユニオンが、退職代行ユニオンです。
労働組合は団体交渉権があるため、労働条件について会社と交渉できます。そのため、退職代行ユニオンも、退職金の請求が可能です。
退職代行ユニオンは、退職したいとき一時的に加入しても利用できる点で便利です。
しかし、退職した人が勤務先から損害賠償を請求されるなどして裁判になった場合の代理人にはなれません。裁判のサポートを受けられない点がデメリットです。
民間の退職代行業者による退職代行サービス提供
民間の退職代行業者は、本人に代わり勤務先に退職する意思を伝えます。あくまでも「意思を伝える」という行為のみとなります。会社との法律的な交渉をすると非弁行為にあたるため、退職金請求などはできません。
民間業者は「有給休暇の消化をしたい」なども伝えることはできます。
しかし、それに対し勤務先が本人と相談したいと申し出ても、本人に代わって交渉はできません。ただ、弁護士や退職代行ユニオンと提携している民間業者の場合は、勤務先と交渉が可能です。
私たち編集部が2024年12月にリサーチした80個近い退職代行サービスの中から厳選した、「おすすめの退職代行サービス10選」はこちらからご確認できます。
3.退職金の交渉が必要な場合の依頼先
先に述べたように、退職代行サービスを提供していても退職金交渉ができないサービス提供業者もいます。
退職金を確実にもらうために、会社と交渉できる依頼先を選ぶことが必要です。
確実な退職金交渉が必要なら、労働組合か弁護士の退職代行サービスを
退職金を確実にもらうには、弁護士か労働組合(退職代行ユニオン)の退職代行サービスを利用するのがよいでしょう。
「費用が安い」「気楽に依頼できる」などの理由で、民間業者に依頼したい方もいるかもしれません。しかし、原則として民間業者は退職金請求などの交渉はできません。
そのため、民間業者を利用すると、退職金をもらえないおそれがあります。
結果として、改めて弁護士などに退職金請求の依頼をしなければならず、手間や費用がかかります。
その点、最初から労働組合や弁護士の退職代行サービスに依頼すれば、退職代行と同時に退職金交渉をしてくれるため、余計な手間や費用がかかりません。
なお、退職金トラブルの相談先として「労働基準監督署」を思い浮かべる方もいるかもしれません。労働基準監督署は労働法令に違反した会社に対して指導や是正を行う機関です。
そのため、退職金を不当に受け取れない事実と証拠があれば、会社に是正を促してくれる可能性があります。また、個人で会社と退職金の交渉をしたい場合には、そのアドバイスを受け取ることも可能です。
ただし、労働基準監督署の指導などに強制力はありません。また、あくまでも会社へ指導し、是正を促す機関であるため、個人の退職金交渉を代わりにしてくれるわけではありません。
相談することは可能ですが、実際の交渉を依頼する場合はやはり労働組合か弁護士を利用しましょう。
労働組合や弁護士は、会社との交渉ができる
先に述べたように、弁護士は勤務先と法律的な交渉ができます。労働組合も、会社と団体交渉権があるため、勤務先と交渉できます。
退職金をもらうには勤務先と交渉する必要があるため、退職金交渉が必要なら弁護士もしくは労働組合を選びましょう。
弁護士は、会社の支払い拒否に法的対応ができる
会社によっては、弁護士や労働組合から退職金交渉をされても支払いを拒否するケースがあります。しかし、弁護士に依頼すれば、勤務先が支払いを拒否しても法的対応ができる点が強みです。
弁護士は退職金をもらえる証拠を集め、万が一裁判になりそうなときも準備ができ、実際に裁判になっても対応できます。そのため、弁護士に依頼すれば、退職金の受け取りができる可能性は高くなります。
また、弁護士なら、未払いの給与・残業代、セクハラ・パワハラなどほかの法律問題があっても、退職金請求と同時に交渉や法的対応が可能です。
さらに、勤務先から損害賠償請求訴訟を起こされたとしても、弁護士なら対応してもらえるため、安心です。
一般的には、退職代行を使っただけで損害賠償請求はされません。
しかし、いわゆるブラック企業では、脅しの意味で損害賠償請求をちらつかせることや、実際に訴訟を起こすことがあり得ます。
そのため、万が一を考えて弁護士に依頼しておいたほうが安心かもしれません。会社側へのけん制になるため、退職手続きもスムーズに進みます。
ただし、弁護士が運営する退職代行サービスは利用料金が高額なケースが多いため、そちらはあらかじめ意識すべきポイントとなります。
4.退職代行で退職金をもらうための事前確認事項
退職代行で退職金をもらえるようにするには、以下の点を事前に確認しましょう。
- 勤務先の退職金規程
- 会社に退職金制度があるか
勤務先の退職金規程を理解する
会社が退職金制度を設ける場合、対象者や計算方法、支払い時期などを就業規則に明記する必要があります(労働基準法第89条第3号の2)。
そのため、就業規則で退職金規程があり、本人が退職金をもらえる立場にある場合、退職代行を使うか否かにかかわらず、退職金を受け取れます。
しかし、会社によっては退職金規程を無視し「退職代行を利用した場合には退職金を支給しない」と言ってくることもあり得ます。
その場合は退職金規程を根拠に、退職金の受け取りを主張できます。
就業規則の確認方法
就業規則は、パート・アルバイトを含め、従業員が10名以上いる会社では作成して労働基準監督署への届け出が必要です(労働基準法第89条)。
また、就業規則は従業員への配布や職場への掲示などの方法によって、周知されていければなりません(労働基準法第106条)。
そのため、従業員が10名以上の会社では、就業規則は必ず作成されているはずです。就業規則がない、または見られない場合は、人事部など就業規則の担当者に問い合わせる必要があります。
なお、従業員が10名未満の場合、就業規則の作成義務はありません。しかし、厚生労働省では、従業員が10名未満の会社でも、就業規則の作成が望ましいとしています。
従業員が10名未満の小さな会社にお勤めの方も、就業規則があるか、確認してみましょう。
参照元:厚生労働省「就業規則作成の9つのポイント」1ページ目
受給条件をチェックする
自分は退職金がもらえるのか、もらえる場合はいくらなのかもチェックしておきましょう。勤務先の受給条件を満たしていなければ退職金は受け取れません。
例えば、退職金の受給条件を「勤続3年以上」と定めている会社は少なくありません。一方、入社して1年以内から退職金が出る会社もあります。
退職金の額については、勤続年数によって金額が増えていく仕組みが一般的です。ただし、勤続年数にかかわらず「一律○円」と設定している会社もあります。
また、退職金の不支給規定がないかも確認しましょう。例えば、就業規則に違反した人や懲戒解雇した人には退職金を支給しないと定めている会社もあります。
いずれにしても、退職金の受給条件は会社が独自に決めるため、勤務先の規程を確認することが大切です。
そもそも退職金制度があるか
大前提として、勤務先に退職金制度があることの確認も必要です。退職金制度は、すべての会社にある制度だと思っている方もいるかもしれません。
しかし、退職金は、法律で支払いが定められたものではありません。そのため、退職金制度がない会社も存在します。
厚生労働省による令和5年の調査では、30人以上の従業員がいる会社のうち、退職金制度がない会社の割合は24.8%でした。
また、従業員1,000人以上の会社では8.8%、30~99人の会社では29.5%と、会社の規模による違いもあります。
データで調査された「30人以上の従業員がいる会社」より小さな会社に勤務していた場合は、退職金がもらえない可能性がさらに高いと考えられます。
5.退職代行で退職金を受け取るために
退職代行を使いスムーズに退職金を受け取るには、退職前の行動や辞め方に注意が必要です。
無断欠勤など不誠実な行動をとらない
退職する前に長期間無断欠勤をしていたなど、不誠実な行動をとっていた場合は、会社側とのトラブルを招きます。
そうなると退職代行を使ったとき、勤務先が退職する月の減給などを行うおそれもあります。
また、日頃の勤務態度が悪質だった場合や、会社に損失を与えた場合などは、懲戒解雇や損害賠償請求される可能性も考えられます。
懲戒解雇は極めて重い処分なので、簡単にはできませんが、2週間以上の無断欠勤が続いたことで損失を与えた場合などには、裁判所から認められる可能性が高まります。
懲戒解雇になれば転職活動に影響がでる可能性もあるため、避けることが大切です。
また、退職を理由に損害賠償を請求されるケースもほとんどありません。しかし、実際に会社に損失を与えている場合には、損害賠償を請求される可能性はあります。
不誠実な行動をとらず、会社のルールに従って適切に辞めれば、このようなトラブルは避けられます。
繁忙期の退職はなるべく避ける
法律では退職の自由があり、正社員など雇用期間の定めがない労働者が退職するには、辞める2週間前までに会社に伝えればよいことになっています。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する
また、雇用期間が決まっている契約社員などでも、民法628条で定められた「やむを得ない事由がある場合」や、労働基準法137条で定められた「1年以上勤務している場合」は、いつでも退職できます。
しかし、繁忙期に突然退職を申し出たり、無断欠勤やいわゆるバックレをしたりすると人員不足になり、会社が非常に困ります。
その結果、会社が本来得られたはずの利益が得られなかったなどの問題が起きるかもしれません。
すると、先に述べたような懲戒解雇や損害賠償請求などをされるおそれがあります。不要なトラブルを防ぐためにも、繁忙期の退職はなるべく避けましょう。