新卒看護師として働き始めてから1年以内に「辞めたい」と感じることは、実は珍しくありません。日本看護協会の調査によれば、看護師1年目の離職率は約10.2%、4人に1人が1年以内に離職を検討していると言われています。
この記事では、新卒看護師が辞めたいと感じる主な理由と、その状況を乗り越えるための具体的な対処法を解説します。苦しい状況にいる方に向けて、一人で抱え込まずに前向きな選択ができるよう、実用的な情報をお届けします。
- 新卒看護師の離職率の実態と「辞めたい」と思う7つの主な理由
- 辞めたい気持ちを乗り越えるための具体的な対処法と効果的なスキルアップ方法
- 看護師を続けるか辞めるかの判断ポイントと、転職・退職時の進め方
1.新卒看護師の離職実態

看護師1年目の離職率データ
日本看護協会が実施した2023年病院看護実態調査によると、2022年の新卒看護師の離職率は10.2%と、2年連続で10%を超える結果となりました。これは約10人に1人が看護師1年目で離職している計算になります。
この背景には新型コロナウイルス感染症の影響も考えられており、2023年の調査では「2022年度に早期退職者が増加した」と回答した病院は約35%で、そのうち新型コロナウイルス感染症による影響と回答した割合は41.5%でした。
参考:日本看護協会広報部
病床規模別の新卒看護師の離職率
病床数 | 離職率 |
---|---|
99床以下 | 13.9% |
100~199床 | 12.7% |
200~299床 | 9.2% |
300~399床 | 11.8% |
400~499床 | 9.6% |
500床以上 | 9.3% |
この表から、病床数が少ない小規模な病院ほど離職率が高い傾向があることがわかります。これは例年通りの結果で、大規模病院に比べると教育・研修体制や待遇面が不十分な病院が多いことや、人手不足により休暇取得が難しいことなどが要因として考えられます。
エリア別の看護師1年目離職率
離職率が高いエリア
- 香川県(17.1%)
- 栃木県(14.3%)
- 長崎県(13.3%)
離職率が低いエリア
- 福井県(3.7%)
- 静岡県(4.1%)
- 富山県(5.1%)
離職率が低いエリアは地方に集中している一方、正規雇用看護師全体の離職率が高いエリアは東京都・神奈川県(14.6%)、大阪府(14.3%)、千葉県(13.5%)と大都市圏に集中しています。大都市圏では医療機関が多く転職しやすい環境であることや、患者数の多さによる業務負担が影響していると考えられます。
2.新卒看護師が辞めたいと感じる7つの理由

理由1:職場の人間関係の難しさ
看護師1年目で「辞めたい」と思った人の理由で最も多いのが人間関係の問題です。看護の現場では多くの医療スタッフとの連携が必要であり、その中でうまくコミュニケーションが取れないと大きなストレスになります。
特に問題となりやすい人間関係には以下のようなものがあります。
- 先輩看護師からの厳しい指導や叱責
- 同期との競争や比較
- 医師とのコミュニケーションの難しさ
- 患者やその家族との関係構築
- 陰口やハラスメント的な行為
職場や業務に不慣れな1年目の間に人間関係のストレスが加わると、精神的な負担はさらに大きくなります。この状況を乗り越えるには、信頼できる相談相手を見つけることが重要です。
理由2:想像と現実のギャップ
看護学生時代に描いていた理想と、実際の臨床現場との間には大きなギャップがあることが多いです。約7割の看護師が入職後にギャップを感じているというデータもあります。
具体的なギャップの例
- 学校で学んだ理想的な看護と、現場での時間的制約の中での看護の違い
- 患者さんとじっくり向き合う時間がない現実
- 医療行為だけでなく、事務作業や雑務の多さ
- 覚えることの膨大さと、すぐに成果を出せない焦り
- 責任の重さと自信のなさのギャップ
こうしたギャップが継続すると、「自分は看護師に向いていないのではないか」という疑念を抱き、離職を考えるきっかけになります。
理由3:業務量の多さと残業の負担
新卒看護師が直面する大きな課題の一つが、予想以上の業務量と残業の多さです。入職直後は受け持ち患者さんの数は多くないものの、1年目の看護師は以下のような様々な負担を抱えています。
- 病態や検査などの知識・手技の習得
- 1日の業務の流れや病院システムの理解
- 多くのスタッフの名前や役割の把握
- 受け持ち患者さんのための勉強
- 病棟や病院開催の研修・勉強会への参加
- 業務終了後の先輩との振り返りの時間
これらの負担が重なり、残業が増え、プライベートの時間が確保できなくなることで、心身ともに疲弊してしまうケースが少なくありません。
理由4:責任の重さによる精神的プレッシャー
看護師は人の命と健康に直接関わる仕事であり、その責任の重さは想像以上に大きなプレッシャーとなります。特に新卒看護師にとっては以下のような不安が大きな負担となっています。
- 医療ミスを起こすことへの恐怖
- 患者の急変時の対応への不安
- 判断の遅れが患者の状態悪化につながる可能性
- 多忙な中での確認不足への恐れ
- 先輩や医師からの評価への過度な意識
こうした常に緊張感を強いられる環境は、メンタルヘルスに悪影響を及ぼし、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクも高まります。一般的な社会人と比べても、看護師は特に高いストレスにさらされる職業の一つです。
理由5:知識・技術不足による自信喪失
看護師として働き始めたばかりの1年目は、実践的な知識や技術が不足していることへの不安と焦りを感じることが多いです。特に以下のような状況が自信喪失につながります。
- 基本的な看護技術でも緊張して手が震える
- 患者からの質問に適切に答えられない
- 先輩看護師の動きについていけない
- 報告・連絡・相談の仕方がわからない
- 自分の能力や技術の足りなさを感じる
看護学校では学べない現場特有の知識や技術が多く、それらを短期間で身につけなければならないプレッシャーは大きいものです。できないことを指摘されるたびに自信を失い、「自分には無理なのではないか」と感じてしまう新人看護師は少なくありません。
理由6:体力的な限界
看護師の仕事は想像以上に体力を使う仕事です。長時間の立ち仕事、患者の移動介助、夜勤と日勤の不規則な勤務形態など、身体への負担は非常に大きいものがあります。
具体的な体力的負担
- 12時間に及ぶ夜勤の疲労
- 夜勤明けの体調不良
- 長時間の立ち仕事による足腰への負担
- 患者の移乗介助による腰痛
- 不規則な食事や睡眠による体調管理の難しさ
特に体力に自信のない方や、もともと持病がある方は、この体力的な負担が離職を考える大きな理由となることもあります。看護師の職業病とも言える腰痛は、若いうちから発症するケースも少なくありません。
理由7:待遇面への不満
看護師は比較的給与が高いイメージがありますが、実際に働き始めると思ったより給与が低く感じたり、勤務条件に不満を持つケースもあります。
待遇面での具体的な不満
- 新卒時の基本給が予想より低い
- 入職後すぐは夜勤手当がつかない
- 夏のボーナスが満額支給されない
- 休日出勤や残業の多さに対する対価の不満
- 休暇取得の難しさ(「休み希望は1ヵ所まで」など)
- キャリアパスや昇進の見通しの不透明さ
特に休暇に関しては、希望通りに休みが取れないことでプライベートの予定が立てづらく、ワークライフバランスが崩れる原因となっています。これらの条件は病院や上司によっても大きく異なるため、入職後に初めて知ることも多いです。
3.辞めたい気持ちを乗り越えるには

職場の人間関係を改善する方法
入職後に人間関係の悩みを抱えた場合は、次のような方法で改善を図りましょう。
コミュニケーションの基本を意識する
- 挨拶や笑顔を大切にする
- 「ありがとう」「お願いします」などの言葉を積極的に使う
- 指導を受けたら素直に「ありがとうございます」と伝える
- メモを取るなど、相手の言葉を大切にする姿勢を見せる
効果的な質問の仕方を身につける
- 質問するタイミングを考える(忙しい時間を避ける)
- 質問の前に自分なりに考えたことを伝える
- 質問は具体的に、簡潔にまとめる
- 同じ質問を繰り返さないよう、メモを活用する
メンターや相談相手を見つける
- 教育担当以外にも相談できる先輩を見つける
- 同期との情報交換や悩み共有の時間を持つ
- 必要に応じて看護部長や師長に相談する
- 院内のメンター制度や相談窓口を積極的に活用する
人間関係の改善には時間がかかりますが、自分から働きかけることで少しずつ変化が生まれます。どうしても合わない場合は、部署異動の相談をすることも一つの選択肢です。
業務負担を軽減するテクニック
業務の負担に押しつぶされそうになったときは、次のようなテクニックを試してみましょう。
効率的な業務遂行のコツ
- 業務の優先順位を明確にする(緊急性と重要性のマトリクスで考える)
- タイムマネジメントを意識する(各業務にかける時間の目安を持つ)
- チェックリストを活用して抜け漏れを防ぐ
- 同じ動作はまとめて行う(検温と合わせて観察をするなど)
- 記録は簡潔かつ正確に書くコツを身につける
先輩に効果的に相談する方法
- 「これはどうすればいいですか」ではなく「これはこうしようと思うのですが、どうでしょうか」と自分の考えを示す
- 忙しい時間を避けて相談する
- 相談内容をあらかじめまとめておく
- 教えてもらったことはメモして繰り返さない
無理をしないペース配分
- 完璧を求めず、できることから着実に進める
- 自分の限界を知り、必要に応じてヘルプを求める
- 休憩時間はしっかり取る
- 勤務外の時間は極力仕事のことを考えない時間を作る
業務に慣れるまでは時間がかかりますが、少しずつ効率は上がっていきます。1年目は特に焦らず、着実に成長していくことを意識しましょう。
メンタルケアの重要性と方法
看護師の仕事はメンタル面での負担も大きいため、セルフケアが非常に重要です。
ストレス管理の基本
- ストレスの原因を特定し、対処法を考える
- 自分なりのストレス解消法を見つける(運動、趣味、音楽など)
- 「完璧にできなくて当然」と自分を許す心構えを持つ
- 「今日できたこと」にフォーカスする習慣をつける
心身のバランスを保つ習慣
- 十分な睡眠を確保する
- バランスの良い食事を心がける
- 適度な運動を取り入れる
- 勤務と休日のメリハリをつける
専門家のサポートを活用する
- 必要に応じて院内のカウンセリングサービスを利用する
- 産業医や心療内科などの専門家に相談することも検討する
- 看護協会などの外部相談窓口も活用する
メンタルヘルスの不調は早期発見・早期対応が重要です。「弱い」と思わず、必要なサポートを求めることは専門職としての自己管理の一環と考えましょう。
スキルアップの効果的な方法
知識や技術に不安を感じる場合は、次のような方法でスキルアップを図りましょう。
効率的な学習法
- 日々の業務から学ぶべきポイントを1つずつ設定する
- 患者の疾患や検査について短時間でも調べる習慣をつける
- スキルチェックリストを作成し、進捗を可視化する
- 先輩のやり方を観察し、良い点を真似る
小さな成功体験を積み重ねる
- できるようになったことを日記などに記録する
- 患者さんや先輩からのポジティブなフィードバックを大切にする
- 最初は簡単なことから確実にこなしていく
- 1ヶ月前、3ヶ月前の自分と比較して成長を実感する
学習リソースの活用
- 院内の勉強会や研修に積極的に参加する
- e-ラーニングや看護雑誌などの外部リソースも活用する
- 同期と一緒に勉強会を開く
- 疑問点はその場で解決する習慣をつける
知識や技術は一朝一夕には身につきません。日々の小さな努力の積み重ねが、確実なスキルアップにつながります。
4.看護師を辞めるか続けるかの判断ポイント

自分と向き合うための3つの質問
看護師を続けるべきか悩んだときは、以下の3つの質問を自分自身に投げかけてみましょう。
- 「今の不満や悩みは一時的なものか、本質的なものか?」
一時的な問題(知識不足、人間関係の摩擦など)は時間とともに解決する可能性があります。しかし、看護という仕事そのものへの不適合感や価値観の根本的な違いは、継続しても改善しにくい場合があります。 - 「別の環境(病院・部署)に変わることで改善する可能性はあるか?」
現在の職場特有の問題なのか、看護師という職業全般の問題なのかを区別することが重要です。職場環境の変化で解決できる問題であれば、転職という選択肢も検討する価値があります。 - 「5年後、10年後の自分はどうなっていたいか?」
長期的なキャリアビジョンの中で、現在の苦労や学びがどう位置づけられるかを考えましょう。短期的な不満だけで判断すると、後悔する可能性もあります。
これらの問いに誠実に向き合い、自分の価値観や将来像と照らし合わせて判断することが大切です。
転職という選択肢の考え方
看護師を辞めるのではなく、職場を変えるという選択肢も検討しましょう。
転職のメリット
- 新しい環境で新たなスタートが切れる
- より自分に合った職場文化や働き方を選べる
- 専門性を高めたり、異なる分野を経験できる
- 条件面(給与・勤務体系)の改善が期待できる
- 前職での経験や反省を活かせる
転職活動の進め方
- 自分が求める条件を明確にする(職場環境、専門分野、勤務形態など)
- 情報収集(求人サイト、看護師向け転職サイト、口コミサイトなど)
- 職場見学や説明会への参加
- 面接対策(前職での経験、転職理由、今後のビジョンなど)
- 条件交渉と入職準備
より良い職場を見つけるポイント
- 教育体制が整っているか
- 離職率の低さ(特に新人看護師の定着率)
- 残業時間の実態
- 有給休暇の取得率
- 先輩看護師の様子や雰囲気
転職は失敗ではなく、より自分に合った環境を探すためのステップと前向きに捉えましょう。特に新卒1年目での転職は珍しいことではなく、キャリア形成の中での一つの選択肢です。
退職を決断したときの手続きとマナー
退職を決めた場合は、円満に退職するために以下のポイントを押さえましょう。
退職の伝え方とタイミング
- 一般的には退職希望日の1〜2ヶ月前には上司に相談する
- まずは直属の上司(師長など)に口頭で伝える
- 感情的にならず、簡潔かつ誠実に理由を説明する
- 感謝の気持ちも忘れずに伝える
円滑な引き継ぎの進め方
- 担当患者の情報を整理する
- 業務手順や注意点をまとめる
- 必要に応じて引き継ぎ資料を作成する
- 後任者へ直接引き継ぐ機会があれば丁寧に説明する
退職時の必要手続き
- 退職届の提出(院内の規定に従う)
- 健康保険や年金の手続き
- 退職後の住所変更の連絡
- 貸与物品の返却と確認
退職後も医療業界は狭いため、良好な関係を維持することが重要です。たとえ辛い経験があっても、最後まで誠実に対応し、感謝の気持ちを伝えて退職することを心がけましょう。
5.新卒看護師を支える制度と相談先

院内で活用できるサポート制度
多くの病院では新人看護師をサポートするための様々な制度が整備されています。これらを積極的に活用しましょう。
プリセプター制度
経験豊富な先輩看護師が1対1で新人をサポートする制度です。業務や技術の指導だけでなく、精神的なサポートも期待できます。プリセプターとの相性が合わない場合は、看護管理者に相談することも検討しましょう。
メンター制度
プリセプターとは別に、精神的なサポートや相談役として指定される先輩看護師です。直接の業務指導者ではないため、より気軽に相談できる関係が築けることが多いです。
新人研修プログラム
多くの病院では段階的な新人教育プログラムが組まれています。基礎から応用へと無理なくスキルアップできるよう設計されているため、積極的に参加しましょう。
院内カウンセリングサービス
メンタルヘルスをサポートするためのカウンセリングサービスを提供している病院も増えています。専門家に相談することで、客観的な視点からアドバイスを得られます。
これらの制度を知らない場合は、教育担当者や師長に確認してみましょう。制度があっても活用されていないケースもあるため、自分から積極的に利用する姿勢が大切です。
外部の相談窓口とサービス
院内での相談が難しい場合や、より専門的なサポートが必要な場合は、外部の相談窓口やサービスを利用することも検討しましょう。
看護協会の相談窓口
都道府県看護協会には看護職のための相談窓口が設置されています。労働条件や職場環境、キャリア形成など、様々な悩みに対応しています。会員でなくても利用できる場合もあるので、お住まいの地域の看護協会に問い合わせてみましょう。
看護師向けカウンセリングサービス
看護師に特化したカウンセリングサービスも増えています。職場では話しづらい悩みや、キャリアに関する相談など、第三者の専門家に相談することで新たな視点が得られるかもしれません。
看護師コミュニティ・SNSグループ
同じ悩みを持つ看護師同士で情報交換できるオンラインコミュニティも有用です。匿名で参加できるものも多く、「自分だけではない」という安心感を得られることもあります。ただし、個人情報や患者情報の取り扱いには十分注意しましょう。
退職代行サービス
直接退職の意思を伝えることが難しい場合には、退職代行サービスの利用も一つの選択肢です。特にパワハラなどの問題がある職場では、第三者を介して交渉することで精神的負担を軽減できる場合があります。
実際に看護師の方で退職代行を使った方の体験談が読みたい方は、こちらの記事もおすすめです。
これらの外部サービスは、一人で悩みを抱え込まないための重要なセーフティネットです。必要に応じて積極的に活用しましょう。
6.自分らしいキャリアを築くために

新卒で看護師を辞めることや転職を考えることは、決して珍しいことではありません。冒頭でも述べたように、約4人に1人が1年以内に離職を検討しており、実際に約10%が離職しています。これは「失敗」ではなく、自分のキャリアを見つめ直す大切なプロセスの一つです。
看護師という職業には様々な働き方があります。病院だけでなく、クリニック、訪問看護、産業看護、保健師など、活躍の場は多岐にわたります。自分の価値観や強みを活かせる場所を見つけることが、長く看護師として働き続けるための鍵となるでしょう。
自分が5年後、10年後にどうなっていたいかをイメージし、そこに向かって小さな一歩を踏み出すことが大切です。新卒看護師の方は、一人で悩みを抱え込まず、周囲のサポートを活用しながら、自分らしいキャリアを模索してください。看護の道は決して簡単ではありませんが、その分やりがいや成長の機会も豊富です。あなたらしい看護師像を見つけ、長く活躍できることを願っています。